ご来場ありがとうございました!(第44回西荻ブックマーク「つれづれなるままに古本」)

第44回nbm

第44回西荻ブックマークは、「文壇高円寺」(http://gyorai.blogspot.com/)でおなじみの荻原魚雷さんが、新著『活字と自活』(本の雑誌社)を発売されるのを記念してのトークショー。ゲストには、魚雷さんたっての希望で、わめぞ代表の「古書現世」向井透史さんをお迎えしました。

西荻ブックマークに何度も足を運んでくださっている魚雷さん初の登場とあって、会場はアットホームな温かい雰囲気。普段物静かな魚雷さんから、普段からわめぞで共に活動して気心知れた向井さんが多様なエピソードを引き出して、会場を沸かせます。高校時代に革命を志す、ブラックジャーナリズムに身を投じて散々な目に遭う、漫画のセドリで生活費を捻出、中央線に住んでいたのに電車に乗らず自転車で移動、などなど。
「魚雷さんがあんなに話したのを初めて見た」「魚雷さんは一週間分話したのではないか」という声も聞かれるほどのスムーズなトークで、2時間があっという間に過ぎました。

活字と自活また、当日会場では『活字と自活』の先行発売が行なわれ、希望者には魚雷さんがイラスト入りで丁寧にサインを入れてくださいました。
古本好きはもちろん、もやもやを抱えながら生きる人は必読の『活字と自活』は本の雑誌社から好評発売中ですので、ぜひ書店で手に取ってみてください。
山川直人さんの表紙イラスト、藤井豊さんの写真(最初の写真は魚雷さん本人!)、下坂昇さんの版画、バラエティブックのような段組みなど、アイデアが詰まった本の作りも話題を呼んでいます。

なお、当日の模様は魚雷さんのブログに書かれておりますので、引用させていただきました。お楽しみください。

スタッフ:山崎

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昨日、西荻ブックマークで古書現世の向井透史さんとトークショー。

三年前にメルマガの早稲田古本村通信で「高円寺だより」という連載をはじめたころ、向井さんから「今、二十代くらいの若い人に向けた文章を書いてみては」というようなことをいわれた。
ちょうど同じ時期に、無責任な立場ながら、わめぞの活動に参加させてもらうようになり、それまでどこにいっても若手だったのが、いつの間にか、自分が年輩組にいることに気づいた。
仕事が長続きしない。人間関係がうまくいかない。生活に困っている。
今の二十代で本に関する仕事をしている人の境遇は、わたしが二十代のころよりもはるかに厳しい。

若い人といろいろ話をしているうちに、こうすればよかった、ああすればよかった、とおもったことがある。昔の自分にやれといっても、たぶん、できなかったことかもしれないけど、そういうことをいったり、書いたりしてもいいのではないかとすこしずつ気持が変化していった。
そのきっかけになったのが、向井さんの一言だったのである。

『活字と自活』は、不安定な仕事をしながら趣味(読書)と生活(仕事)の両立する上での試行錯誤をつづったコラムとエッセイを集めた本といえるかもしれない。

トークショーの最後のほうで、しどろもどろになりながら、今回の本で紹介している中井英夫の『続・黒鳥館戦後日記』のことを話した。

西荻窪のアパートに下宿していた若き日の中井英夫は「僕に、どうにか小説を書ける丈の、最低の金を与へて下さい」と綴っている。

この日記には次のような理想の生活を書いてある。

お客がきたら米をごちそうし、一品料理でもてなしたい。新刊本屋、古本屋をまわって好きな本を買い集めたい。レコードがほしい。ウイスキーや果実酒を貯蔵したい。友達に親切にしたい。芝居や映画が見たい。

自分の生活が苦しいときに、現実を忘れさせてくれるような壮大な物語を読みたいとおもうときもあるのだが、どちらかといえば、わたしは直視したくないような現実をつきつけられつつ、それでもどうにかなるとおもえるような本が好きだった。

気がつくと、トークショーでは貧乏話ばかりしていた。

――文壇高円寺: 活字と自活の話

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キモノ対談「背筋を伸ばして着物を着よう」島本理生×井嶋ナギ

『Feel Love』Vol.10(祥伝社)
総力特集=島本理生 女子的日常のススメ

第42回西荻ブックマークでの島本理生さん×井嶋ナギさんのトークが載録されています!

» 第42回西荻ブックマーク イベントレポート はこちら

» 読切恋愛小説誌『Feel Love フィールラブ』vol.10 総力特集=島本理生 女子的日常のススメ の詳細はこちらから


第44回西荻ブックマーク

2010年7月11日(日)

※チラシ、『西荻丼』24号記載の開催日が変更となりました。

荻原魚雷『活字と自活』「つれづれなるままに古本」
出演:荻原魚雷×向井透史(古書現世)

会場:今野スタジオマーレ
開場:16:30/開演:17:00
料金:1500円
定員:30名
要予約

荻原魚雷さん待望の新刊『活字と自活』が7月に本の雑誌社から発売されます。
この新著発売を記念して、地元中央線で古本トークを開催!
わめぞ代表の向井透史さんを相手に、静かなる男の熱い古本愛があふれ出す!?

【7/3追記】

荻原魚雷『活字と自活』(本の雑誌社)
7月12日搬入予定

7/11(日)第44回西荻ブックマークの会場にて特別先行販売を行います!!!

荻原魚雷(おぎはら ぎょらい)
文筆業。1969年生まれ。著書『古本暮らし』(晶文社)など。

文壇高円寺 http://gyorai.blogspot.com/


向井透史(むかい とうし)
「古書現世」店主。1972年生まれ。著書『早稲田古本屋日録』(右文書院)など。

古書現世店番日記 http://d.hatena.ne.jp/sedoro/


ご来場ありがとうございました!(第43回西荻ブックマーク「出版流通危機一髪?」)

第43回nbm

6月27日は、時折雨がパラつく蒸し暑い日でした。通常より少し遅い18時半に、西荻ブックマークでは初めてとなる、会場のKISSCAFEがオープン。近隣の飲食店の夕方の雰囲気とも相まって細い通りは少しずつ賑わいを見せ、スタートの19時頃には50名の参加者でぎっしり埋め尽くされました。

第43回は「出版流通危機一髪?」というテーマ。ゲストは取次会社(株)大阪屋の鎌垣英人さんと業界紙『新文化』前編集長の石橋毅史さん。

取次会社の人が表に出ることは少ない中で、鎌垣さんは2005年に刊行された『新世紀書店』(ポット出版)という書籍の中で石橋さんと対談をし、他にも勉強会などで発言をされています。デリケートな部分もあるとは断りながら、取次の仕事や役割についてできるだけ話したい、という鎌垣さんは、『新文化』に在籍中から取次会社で唯一と言っていいほど話しやすい相手だった、と石橋さん。

対談は、いま話題の“電子書籍”からスタート。鎌垣さんは、業界紙の一面や業界内の勉強会、そしてイベント等で電子書籍の話題は飛び交っているが、書店は結局“紙”の本を売る立場だから今すべきことが大事であって、本を売る努力をするしかない……という意見。かつてシグマブック(松下)やリブリエ(Sony)が業界のニュースを賑わせたことにも触れつつ、取次は実は電子書籍対応の部署は前から作っていたが、以前のアプリは取次にマージンを持たせる動きだったのに対し、今回は紙を扱う取次にはマージンが入ってこないことが大きな違いだと説明しました。ビジネス書のベストセラー『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』で推定1~3万ダウンロードという数字は2兆円産業のなかで大きなものではなく、今は実験の段階で出版社は数字を見ているのだという読みです。数万人いると言われる出版関連の従事者の食い扶持を稼げるのかという視点なしに、電子書籍に過大な夢を抱くのは現実的とは言えないでしょう。

石橋さんは、出版社が“電子書籍”に慣れてきてコンテンツがどのデバイスに対応するかが話題になり、紙か電子か?という状況になりつつある現状を、『死ねばいいのに』(京極夏彦)や『親鸞』(五木寛之)といった紙と電子書籍の両方が売れた例を挙げて説明。また、紙と電子の価格差について小学館や講談社の例を挙げ、また業界三者(出版社・取次・書店)がそれぞれバラバラな方向を見ているのではないか? 態度の差を感じると指摘し、従来型を維持しつつも、出版社→電子へ/書店→切り捨てられる?/取次→効率化を唱えて書店を選別に入っている、囲い込んでいる……そんな空気を感じると疑問を投げかけました。

それに対し、取次の立場や対応は変わらないし、取次へのそういった指摘は昔からあったと答える鎌垣さん。序盤から熱のこもったやり取りです。

話題は古書と新刊を並売する書店のケースへ。石橋さんは、昔は強い抵抗があったが、今は何か面白いことをやらなくてはと書店が取り組んでいる、今後も増えるだろう、と予測。それを受けて鎌垣さんは、新刊を新刊に近い状態で持っていくならそれを新刊書店が買い取るというシステムは“あり”だろうし、例えばあるテーマの棚を作る時に必要な本が品切れで古書しかないなら、それで棚作りをする手もある、と同意しつつも、消費者にはよいが著作者にはお金が落ちず、ただ安いだけで面白くない、と苦言も。

鎌垣さんが中心となって製作された大阪屋の小冊子『本歩』の狙いとその成果からは、書店と取次のホットな関係も伺い知れ、お客さんの頷き度もアップしたところで前半終了。後半は、お客からクレームのある“搬入発売”のケースの説明から再開。“取次悪玉論”がいちがいに正しいとは言えない理由など、きわどい話題が続出し、「ツイートしないでね」と協力を求める一幕も。

しかし、石橋さんからはアマゾンの初期の物流に関わってきた側の鎌垣さんにいくつか聞きたいと容赦のない質問が。販売データを活用したシステム、巨大な物流倉庫、“きれいな本”論争などなど……お客さんが知りたかったその凄みが明らかにされていきました。

<質疑応答>

――「電子書籍が参入してきて、出版社と著者の対応はどのようになる? 具体的に説明してほしい」

鎌垣:著者だけでは良質なテキストの提供は難しい、編集の手が必要。この著者のこの新作はここだけでしか販売できないというケースは必至だけれど、電子と紙の連動はどう変わっていくのか…まだわからない。5年で紙の書籍は半減などと言われるほどではないけれど、徐々に減っていくのは確かで、取次が置いていかれるのは当たり前。

――「新規書店は大型書店でも陰りが見えていないか? 逆に小さい書店がゼロから出発できるのではないかと思うが、取次に希望の棚構成を相談しても難しい。取次の立場からどうなのか。」

鎌垣:“町の書店活性化論“は昔からある。しかし、実際は回転率や坪単価を考えると食べていくのは雑誌を重視しないと難しい。往来堂書店は雑誌スペースを奥にしたけれど売り上げの半分は雑誌。セレクト系書店の成功例はあるが、取次がサポートをしても書店に力がないと……

――「新刊の刊行点数の減る時期はいつ頃か? 流通形態を取次内部からどうしようとしているか?」

鎌垣:取次は1日200点ベースを扱える生産ラインを組んでいるが、増強したが今はオーバー。扱いを絞らざるを得ないだろう…新刊点数はまだ増えていくと思うが、今そこへ電子書籍が入ってきている。既刊の電子化が先に始まるだろう。
石橋:10万点まで対応できるのか?
鎌垣:10万点まで行くと思うが、実際は企業としては売り上げが伴わない。返品が半分位になるし生産ラインの増強は無理だろう。取次が返品量をセーブするのは企業としての発想だ。

まだまだ質問や意見が出そうなトークでしたが、予定の9時をちょっと過ぎたところで終了。そのまま約20人ほどの方々が会場での懇親会に参加され、お二人を囲んで活発に意見交換をしていました。

蒸し暑い夜の空気に、出版と出版業界の今後を考える皆さんの熱気も加わった、濃い3時間半でした。

(文責:スタッフ・加藤)