ご来場ありがとうございました!(第43回西荻ブックマーク「出版流通危機一髪?」)

第43回nbm

6月27日は、時折雨がパラつく蒸し暑い日でした。通常より少し遅い18時半に、西荻ブックマークでは初めてとなる、会場のKISSCAFEがオープン。近隣の飲食店の夕方の雰囲気とも相まって細い通りは少しずつ賑わいを見せ、スタートの19時頃には50名の参加者でぎっしり埋め尽くされました。

第43回は「出版流通危機一髪?」というテーマ。ゲストは取次会社(株)大阪屋の鎌垣英人さんと業界紙『新文化』前編集長の石橋毅史さん。

取次会社の人が表に出ることは少ない中で、鎌垣さんは2005年に刊行された『新世紀書店』(ポット出版)という書籍の中で石橋さんと対談をし、他にも勉強会などで発言をされています。デリケートな部分もあるとは断りながら、取次の仕事や役割についてできるだけ話したい、という鎌垣さんは、『新文化』に在籍中から取次会社で唯一と言っていいほど話しやすい相手だった、と石橋さん。

対談は、いま話題の“電子書籍”からスタート。鎌垣さんは、業界紙の一面や業界内の勉強会、そしてイベント等で電子書籍の話題は飛び交っているが、書店は結局“紙”の本を売る立場だから今すべきことが大事であって、本を売る努力をするしかない……という意見。かつてシグマブック(松下)やリブリエ(Sony)が業界のニュースを賑わせたことにも触れつつ、取次は実は電子書籍対応の部署は前から作っていたが、以前のアプリは取次にマージンを持たせる動きだったのに対し、今回は紙を扱う取次にはマージンが入ってこないことが大きな違いだと説明しました。ビジネス書のベストセラー『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』で推定1~3万ダウンロードという数字は2兆円産業のなかで大きなものではなく、今は実験の段階で出版社は数字を見ているのだという読みです。数万人いると言われる出版関連の従事者の食い扶持を稼げるのかという視点なしに、電子書籍に過大な夢を抱くのは現実的とは言えないでしょう。

石橋さんは、出版社が“電子書籍”に慣れてきてコンテンツがどのデバイスに対応するかが話題になり、紙か電子か?という状況になりつつある現状を、『死ねばいいのに』(京極夏彦)や『親鸞』(五木寛之)といった紙と電子書籍の両方が売れた例を挙げて説明。また、紙と電子の価格差について小学館や講談社の例を挙げ、また業界三者(出版社・取次・書店)がそれぞれバラバラな方向を見ているのではないか? 態度の差を感じると指摘し、従来型を維持しつつも、出版社→電子へ/書店→切り捨てられる?/取次→効率化を唱えて書店を選別に入っている、囲い込んでいる……そんな空気を感じると疑問を投げかけました。

それに対し、取次の立場や対応は変わらないし、取次へのそういった指摘は昔からあったと答える鎌垣さん。序盤から熱のこもったやり取りです。

話題は古書と新刊を並売する書店のケースへ。石橋さんは、昔は強い抵抗があったが、今は何か面白いことをやらなくてはと書店が取り組んでいる、今後も増えるだろう、と予測。それを受けて鎌垣さんは、新刊を新刊に近い状態で持っていくならそれを新刊書店が買い取るというシステムは“あり”だろうし、例えばあるテーマの棚を作る時に必要な本が品切れで古書しかないなら、それで棚作りをする手もある、と同意しつつも、消費者にはよいが著作者にはお金が落ちず、ただ安いだけで面白くない、と苦言も。

鎌垣さんが中心となって製作された大阪屋の小冊子『本歩』の狙いとその成果からは、書店と取次のホットな関係も伺い知れ、お客さんの頷き度もアップしたところで前半終了。後半は、お客からクレームのある“搬入発売”のケースの説明から再開。“取次悪玉論”がいちがいに正しいとは言えない理由など、きわどい話題が続出し、「ツイートしないでね」と協力を求める一幕も。

しかし、石橋さんからはアマゾンの初期の物流に関わってきた側の鎌垣さんにいくつか聞きたいと容赦のない質問が。販売データを活用したシステム、巨大な物流倉庫、“きれいな本”論争などなど……お客さんが知りたかったその凄みが明らかにされていきました。

<質疑応答>

――「電子書籍が参入してきて、出版社と著者の対応はどのようになる? 具体的に説明してほしい」

鎌垣:著者だけでは良質なテキストの提供は難しい、編集の手が必要。この著者のこの新作はここだけでしか販売できないというケースは必至だけれど、電子と紙の連動はどう変わっていくのか…まだわからない。5年で紙の書籍は半減などと言われるほどではないけれど、徐々に減っていくのは確かで、取次が置いていかれるのは当たり前。

――「新規書店は大型書店でも陰りが見えていないか? 逆に小さい書店がゼロから出発できるのではないかと思うが、取次に希望の棚構成を相談しても難しい。取次の立場からどうなのか。」

鎌垣:“町の書店活性化論“は昔からある。しかし、実際は回転率や坪単価を考えると食べていくのは雑誌を重視しないと難しい。往来堂書店は雑誌スペースを奥にしたけれど売り上げの半分は雑誌。セレクト系書店の成功例はあるが、取次がサポートをしても書店に力がないと……

――「新刊の刊行点数の減る時期はいつ頃か? 流通形態を取次内部からどうしようとしているか?」

鎌垣:取次は1日200点ベースを扱える生産ラインを組んでいるが、増強したが今はオーバー。扱いを絞らざるを得ないだろう…新刊点数はまだ増えていくと思うが、今そこへ電子書籍が入ってきている。既刊の電子化が先に始まるだろう。
石橋:10万点まで対応できるのか?
鎌垣:10万点まで行くと思うが、実際は企業としては売り上げが伴わない。返品が半分位になるし生産ラインの増強は無理だろう。取次が返品量をセーブするのは企業としての発想だ。

まだまだ質問や意見が出そうなトークでしたが、予定の9時をちょっと過ぎたところで終了。そのまま約20人ほどの方々が会場での懇親会に参加され、お二人を囲んで活発に意見交換をしていました。

蒸し暑い夜の空気に、出版と出版業界の今後を考える皆さんの熱気も加わった、濃い3時間半でした。

(文責:スタッフ・加藤)


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