ご来場ありがとうございました!(第38回西荻ブックマーク「旅と演歌とデザインと」)

都築響一トークイベント

撮影:荒木一真

第三十八回の出演者は、編集者でライター、そして写真家でもある都築響一さん。現代美術・デザインをはじめ、秘宝館から洋服、現代詩、またスナックや演歌歌手等々、独自の視点から現代日本の姿を追いかける仕事を続けておられます。

開演前に、約百席の会場がほぼ満員になる盛況ぶり。中央線沿線でのイベントが少ない都築さんの登場に、会場の期待も高まります。

十七時開演。
まずはプロジェクターを使いつつ、今月出たばかりの新刊『Showa Style』の紹介から。
戦後、復興しつつあった東京や大阪で、次々に生まれていた商業建築を紹介した「建築写真文庫」(一九五三~一九七〇、彰国社)。キャバレー、ガソリンスタンド、喫茶店などの姿を集めたこのシリーズ、実は建築家・北尾春道氏がたったひとりで撮影・編集して作っていたのだとか。それを知ったとき、ここに自分の先輩がいた!と都築さんは感じたそうです。
有名建築家の建築物は、それが「作品」であるがゆえに時代を超えている。むしろ、それぞれの時代の匂いやリアリティは、無名の建築物のほうにこそ表現されているはず――そんな視点から、全百四十五巻の「建築写真文庫」を再編集したのが同書。
「日本のミッドセンチュリーモダン」とも言うべき商業建築の数々に、お客様も熱心に見入っていました。

次に一転して、話題は現代へ。
古道具屋の片隅で埃をかぶっていた素人絵画ばかりを集めた画集『Thrift Store Paintings』の驚異。二十年以上も小型バンで全国をまわり続ける歌手・秋山涼子さんの演歌人生。レーザーカラオケ機材販促のために大量に作られた、ソフトポルノ風カラオケ映像への注目。
一見脈絡のない展開のようですが、一貫しているのは、無名の人々や世間から貶められた表現が持つリアリティへのまなざしです。都築さんの姿勢にまったくブレがないことが、お話からよく伝わります。

世間からバカにされている表現の一つに、AV(アダルトビデオ)の世界がある、と都築さんは言います。次に紹介されたのは、そのなかでも、奇妙で独創的なAVを生みだすメーカーとして知られるSOD(ソフト・オン・デマンド)の作品群。大会場に集められた五百人の男女が同時にセックスする『500人SEX』、全裸オーケストラ、全裸避難訓練などの「全裸」シリーズ等々……。「実用的」なAVから限りなく遠く、ほとんどアートに近づいてしまったこれらの作品を、都築さんはクールベ『世界の起源』や現代美術作品を引きあいに出しつつ語ります。曰く「世間から公認された芸術だけでなく、どちらの表現も同じように楽しめる自由さを持てれば、人生はもっと楽しくなる」。常に無名の表現の側に加担してきた都築さんらしい言葉です。
ちなみに、SODの創立者・高橋がなり氏は、TVプロデューサー・テリー伊藤氏の弟子。なるほど、紹介されたAVの数々には、かつての「天才・たけしの元気が出るテレビ」に通じる実験精神とアナーキーな笑いが溢れていました。会場からもたびたび笑い声が起こります。

そして最後に紹介されたのが、「これまで五百回以上見たけど、そのたびに感動する」と都築さんが言う、「ドリャーおじさん」の映像です。ドリャーおじさんとは、東尋坊の崖から二万回以上も飛び込み続けた中年男性のこと。偶然、TVでその姿が紹介されたのを見て衝撃を受けたという都築さん。ドリャーおじさんの無償な飛び込みへの情熱から、「危なくてだれもやらない」「やってもバカにされる」行為に人生を賭ける潔さを教えられたそうです。笑いとともに不思議な感動を呼ぶドリャーおじさんの姿に、会場からはひと際大きな反応が起きていました。

いつもと違い休憩時間もなく続いた本イベントは、ここで終了。大きな拍手で幕を閉じました。盛りだくさんの内容と、長い時間を感じさせない都築さんの巧みな語り口に、スタッフも大いに魅了された二時間でした。
「隙間狙いで変なモノを追いかけるサブカルの人」。ときにそう誤解される都築さんの仕事が、実は時代と人間への熱い関心に支えられていることもまた、しっかりと伝わったのではないでしょうか。
来年以降も新刊を数々準備中という都築さんに、これからも目が離せません!

スタッフ:宮里


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