第72回 西荻ブックマークでは「印刷から読み解く絵本」~古き良き絵本はなぜ美しいか?~ と題しまして、印刷の観点から見ました絵本の魅力を近島哲男さんに語っていただきました。
近島さんは、印刷業界歴35年。印刷会社の製版・組版の部署に勤務していらっしゃいますが、職業柄だけでなく、根っからの印刷好きです。なにしろ、中学2年のとき、美術の教科書で見かけた銅版画に心揺さぶられ、ついには絵本の製版の現場に飛び込んでいった情熱家。しかも、大の絵本好きなのです。
社交家というよりは、コツコツ手を動かして作業する職人気質の人が多い中、人前に立って話そうという印刷関係者は稀です。近島さんの場合、多川精一さん(FRONT、PICTORIAL ALPHABET 児童ABC絵本、E+D+Pほか)、至光社・武市八十雄さんとの出会いがあり~それもご自身の行動力によって自分からコンタクトをとっていき、その経緯もまた素晴らしいのですが~作者・出版関係者・印刷人・読者をつないで、印刷について語り継いでいく必要を感じたそうです。海ねこと組んで、皆様の前でお話いただく機会は、今回が3度目でした。
今回は、石版印刷がオフセット印刷の産みの親であるといったお話、そして、さまざまな新旧の絵本を取り上げながら比較・解説が展開されました。クライドルフ「花のメルヘン」の1920年代 4版と5版、近年のオフセット印刷の絵本、エルサ・ベスコフの原色版(多色刷の活版)の絵本、イーラの「2ひきのこぐま」における1954年の凸版印刷と90年 グラビア印刷の比較、「かわせみのマルタン」の石版印刷と近年のオフセット印刷など。同じ絵本であっても、時代、印刷国によって、実に印刷が異なること。ルーペでのぞくと、その変化が一目瞭然であること。現物を拡大ルーペでスクリーンに映し出しながらの解説も鮮やかでした。また、青い色をいかに美しく出すかが実は難しいこと、心ある製版現場や作者がいかに心を砕いているか、具体的な解説を展開。コロタイプ印刷のガラス版など、さまざまな珍しい印刷見本も見せてくださいました。西荻ブックマーク始まって以来初だそうですが、テーブルを真ん中に配し、皆様にグルリ囲んでいただきました。
近島さんは現場での豊富な体験からどうしても専門的なお話に偏りがち、しかも、皆様に多くを伝えたいという誠意から、ついつい内容を盛り込みがちです。ですが、今回は打ち合わせを重ね、海ねこがずいぶん無理も申しましたがテーマをぎゅうっと絞り込んでいただきました。お集まりくださった方々もとても熱心で、メモをとる方の率が多かったのにも感動させられました。近島さんはノリノリで情熱的にお話になり、聴く側の姿勢との相乗効果から濃密な時間となりました。西荻ブックマークにはこれまで客席側で何度か参加してきましたが、今回、素晴らしい空気、場が確かに産まれていく瞬間にかかわり、立ち会えたことに胸が熱くなりました。皆様のおかげです。ツイッターに寄せられたご感想の数々を、近島さんにお伝えしました。
近島さん、ご参加の皆様、そして、西荻ブックマーク関係者の皆様、ありがとうございました。
「藍インキの色となるフタロシアニンブルーは1900年以降に使われるようになりました。」
質問の対応としてこのように話しましたが、「この色が開発されたのは英国の染料会社で1928年、日本で使われるようになったのはさらに遅く1950年後半でした」とのことです。
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(古本 海ねこ:場生松友子)