第2回「西荻文学散歩」レポート

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さる3月4日、有志による「第2回西荻文学散歩」を行いました。3月にしては寒い一日でしたが、今回は実際に西荻の町を歩いてみようという企画でもあり、10名ほどが集まりました。
準備したしおりで軽く行程を確認したあと、駅南口を出発。まず闇市の名残の飲食店街を通ります。善福寺で生涯を終える作曲家の遠藤実は、駆け出しの頃には西荻窪や荻窪の繁華街を「流し」(お客のリクエストに答えて演奏や伴奏をし)て歌手をめざしていたというエピソードを紹介しながら、作家の中井英夫が住んでいた青雲荘の跡に向かいます。
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青雲荘跡遠景

青雲荘は駅から下りきった低地に建っており、このあたりは昔、大雨の後に水が溜まり、なかなか引かなかった場所だとか。
中井英夫が不遇の時代を過ごした面影はあまり残っていないのですが、近くには映画館や行きつけのバーなどもあったとのこと、作家はきっとそこで淋しさを慰めていたのだろうかと想像しました。

次に、高架下を抜けて北口エリアに出ます。神明通り沿い、かつて シナリオライターたちが「カンヅメ」となって脚本を書いていた旅館跡(木村館)の前を通り過ぎると、三角屋根の洋館が点在する場所に。建築家F・L・ライトの弟子、遠藤新が大正から昭和の初期に建てた住宅が、いまも何軒か残っているとのこと。このあたりで文学散歩は建築散歩の様相を示してきました。

ここで参加者の「西荻大全」さん http://park12.wakwak.com/~tks/ から、かつて出版業で財をなした一色邸の跡に寄ってみようと声がかかりました。西荻歴の長い事情通の方の発案、もちろんためらわずにコースを変更します。…通りから邸宅までの幅の広いアプローチや、ロータリーの跡から、大正時代までの西荻が別荘地であったことをしのびました。(「西荻丼」23号でこのあたりの事情が詳細に調べられています。ぜひバックナンバーをご覧下さい)
さて、神明通りから北へ折れます。西荻窪の区画整理事業(杉並区の1/4にわたった)を手掛けた旧・井荻村、内田秀五郎村長の自宅前を通り抜けると、英文学者で評論家の荒正人氏の書庫兼書斎が見えてきます。西荻文学散歩の会では昨年11月に、ご息女の荒このみさんから父としての荒氏、雑誌「近代文学」と編集仲間とのエピソードなど、興味深いお話をうかがいました。(記事参照
ここでいったん休憩です。クワランカ・カフェで暖かい飲み物を頼んで、ひと息つきます。初顔合わせの方と話をしていると、参加の萩原茂先生(吉祥女子中学・高等学校)から、思いがけず研究誌(「「二閑人」上林曉・濱野修の友情物語」)のプレゼントが。そう、ドイツ文学者の濱野修もまた善福寺に住んでいたのでした。
後半はその善福寺エリアへ。まずその前に地蔵坂上のバス停付近にある「井荻会館」に立ち寄ります。 戦後の町名変更で消えた「井荻町」の名が残されている例の一つです 。趣きのある建物を見上げると、「井戸」と「荻」をあしらった紋が掲げられているのが見えます。
地蔵坂の交差点の先からが善福寺1~5丁目。かつてはここで井荻・善福寺…などの地名に分かれていました。近くには英文学者で平和運動家の中野好夫氏宅も。前述の荒正人氏とは東大英文学部の先輩後輩の間柄でもあって、懇意にしていたそうです。
そしてバス通りから横へ入ると、さくら町会、同潤会西荻窪住宅へ。数は少なくなりましたが、昭和初年建築の普通住宅が、よく手入れをされて現役で住まわれているのに感じ入ります。建て替えられても、家の壁が近い建て方はそのままで、住民の皆さんの交流の様子が伝わってきます。
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中西悟堂宅跡

善福寺に住んだ文化人で着目すべきは、2月5日まで荻窪の杉並区郷土博物館分館で回顧展が開かれていた、日本野鳥の会の創設者・中西悟堂氏です。
中西氏は手付かずの自然が残っていた善福寺池界隈に惹かれて移りすみ、自然観察活動を通して野鳥保護のための会を作ることを思いたちます。しかし、やがて内田秀五郎村長の尽力でこのあたりは「善福寺風致地区」として公園として整備され、中西は再び手付かずの自然を求めて善福寺を離れていきます。

私たちは善福寺池、上池と下池の間のバス停付近に出てきました。戦前の下池は丈の高い草(荻でしょうか)が生える湿地帯で、今のような池ではありませんでした。一方、上池のボートの発着場の付近、ちょっと小高いところに先の内田秀五郎氏の銅像があり、私たちはここで散歩を終了しました。

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予定時間をオーバーするなど、後から反省することしきりでしたが、参加者の積極的な情報交換や自主的な案内により、予想より内容が膨らみ、面白い散歩になったということを報告いたします。
ご興味がある方は、お気軽に西荻ブックマークのサイトへお問い合わせください。

文責:スタッフ&「文学散歩」世話人 奥園 隆、加藤 亜希子


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